母は幼い頃両親を亡くしていて、だから私からすれば祖母になるそのひととは面識はない。
母の母親の臨終の際には姉弟が集まって、とりとめもない話をして過ごしていたそうで、
昔の話だから病院などへは行かず、家で最期を見守っていたそうだ。

元々明るい家系だから、しんみりすることもなく過ごしていたら、突然寝床の母が目を覚まして
「あんたらがうるさくするから戻ってきてしまった、向こう岸にお稚児さんがぎょうさんおって
楽しそうやったのに……」と言ったそうだ。
そうしてしばらくしてから母親は亡くなったらしい。

叔父が亡くなったときは病院で、朝までに亡くなるのはわかってたから、叔母が手を握って
私たちはそれを黙って見守るような感じになった。

もう薬が聞いて意識が朦朧としているはずの叔父が「手を離さんでくれ、落ちる、落ちる」と
言うのが聞こえて、叔母がどこにいるのか、何をしてるのか訊ねたら
船に乗ってゆっくりゆっくり川を渡ってると言った。ゆっくり、ゆっくり渡るけど、落ちたら戻れない
から離さないでくれ、怖い怖い、と叔父は言ってて、
叔母は「釣りが好きだったからそういう夢を見てるんだろう」と言ってたけども、
母と俺は三途の川を渡ってたんだろうと、そういうことにしようと話し合った。